Free Talk
☆〆切当日に原稿紛失なんて、笑い話にもなりゃしない。
連載始めて以来、満タンのインク瓶を4回程ひっくり返
して、その度自分に呆れたものだが、まさか自分でも、
ここまでまぬけだとは思ってもみなかった。しかし机をひっく
り返しても、戸棚をひっかき回しても、ないものはない。私の
部屋には四次元ポケットがあるのだと確信した。〆切まで
あと2時間半。超特急で描き直すしかない!電話が入
る。担当様である。「3時になんない?」「はあ…ちょっと…無
理です」当たり前である。今頃るんるん気分で編集部
まで持参していたはずなのに。読者ページの〆切も背負って
漫画家よりも忙しい担当様が、ついに重い腰を上げた。
時間とのかけひきなどというとても漫画家らしい経
験を、生まれて初めてした。カリカリとペン入れをしている
と、また電話。聡美ちゃんである。「終わったぁ?」と明
るい声。私の方は半泣きである。事情を知った彼女が慌
てて飛んできた。責任を感じているらしい。私は仕上げ
のトーンを貼っていた。〆切まであと5分。「私も探してみ
る!」「ここまで来て見つかったりしたら泣くに泣けないよ
私は。」香澄のアップのベタをぬろうかぬるまいかと迷って
いたその時、突然黄色い声があがった。「あったぁ!!」…
全身の力が抜ける。筆が原稿の上を転がった。「ここだと
思ったんだ」と机のすきまから原稿をひっぱり出した彼女。
どーして!?私だってそこ探したのに!!「私も1度見て気づか
なかったけど、2度目に見たら端っこが見えたよ。」そう言
って彼女は幻の原稿を差し出した。ドアを叩く音がした。
「久しぶりに来たけど、ホント駅から遠いねここ」という担当様
に、お詫びの言葉もなかった。「ゴメンナサイ」
星の瞳のシルエット・6巻 P.90より
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